はじめに:ビザの申請書の向こう側に、私は「現場の絶望」を見ている
私は現在、行政書士として登録支援機関や監理団体の皆さんの書類作成をサポートしています。特定技能などの複雑な申請書類を整え、入管とのやり取りを円滑に進めるのが私の仕事です。
しかし、私の原点は、行政書士事務所のデスクではありません。かつて監理団体の職員として、毎日作業着を着て現場を駆けずり回り、受け入れ企業と外国人の間で板挟みになり、様々なトラブルに頭を抱えて過ごしたあの毎日にあります。
だからこそ、受け入れ企業の皆さんが抱える「言いようのない無力感」が、痛いほどわかるのです。書類が通ればすべて解決、なんてことは絶対にありません。本当の戦いは、ビザが下りた後の「現場」で起きているからです。
1. 「わかったふり」という名の、悲しい自己防衛
現場を回っていると、必ずと言っていいほど直面するのが「わかったふり」問題です。
社長や工場長が、一生懸命に作業手順を説明する。「いいか、ここは危ないから、絶対にこのボタンを先に押すんだぞ。わかったか?」 外国人は、真っ直ぐに相手の目を見て、元気よく答えます。「はい!わかりました!」
しかし、その5分後。彼は全く違う手順で作業を始め、機械を止め、あるいはあわや大怪我という事態を引き起こす。それを見た現場責任者は激昂します。「さっき『わかった』って言ったじゃないか!嘘をついたのか!」と。
監理団体の職員として、外国人の顔に浮かぶ「絶望」を見てきました。彼は嘘をついたのではありません。実は、一文字も「聞き取れて」なんていなかったのです。
2. 「音」は聞こえても「意味」が届かないという物理的限界
彼らにとって、日本人の話すスピードは、私たちが慣れない外国語の呪文を聞かされているのと同じです。 耳には「音」として入ってきます。でも、脳がそれを単語として認識し、文脈を理解する前に、次の言葉が降ってくる。
結局、彼らの脳に残るのは、相手の怒鳴り声のトーンと、最後に放たれた「わかったか?」という威圧的なニュアンスだけです。ここで「わかりません」と言えば、さらに怒られるかもしれない。無能だと思われて、クビになって、借金を抱えたまま国に帰されるかもしれない。
その恐怖から逃れるための、精一杯の、そしてあまりにも悲しい防衛本能。それが「はい」という返事の正体です。「わかったふり」は、不誠実さではなく、彼らの「この場所で生き残りたい」という叫びなのです。
3. 善意ある企業を蝕む「無力感」の正体
一方で、受け入れ企業の皆さんの苦しみも、私は嫌というほど見てきました。 多くの社長さんは、彼らを単なる「労働力」ではなく、家族のように迎え入れたいという善意を持っています。
しかし、どれだけ丁寧に教えても、どれだけ言葉を尽くしても、最後には「わかったふり」の壁に跳ね返される。 「自分の教え方が悪いのか?」 「彼らとは、一生分かり合えないのではないか?」 「もう、何を言っても無駄だ……」
こうして、最初は熱意を持っていた企業が、少しずつ心を閉ざし、無力感に支配されていく。この「善意の空回り」こそが、現場を最も疲弊させる要因です。支援機関の皆さんは、そのボロボロになった両者の間に立って、必死に糸を繋ぎ止めようとしているはずです。
4. 行政書士として、私が支援機関の皆さんに約束すること
私は、行政書士として皆さんの事務作業をサポートしていますが、それは単に代行作業をしたいからではありません。
皆さんが、現場で起きている「心の断絶」に向き合うための「時間」と「心の余裕」を作りたいからです。
監理団体時代、私は膨大な書類作成に追われ、現場で泣いている外国人の話を聞く時間を削り、疲弊した社長の愚痴に付き合う余裕を失っていました。その結果、防げたはずの失踪やトラブルを防げなかった。その悔しさが、今の私の原動力です。
- 入管法改正への対応、複雑な支援記録の管理、整合性のチェック。
- 支援機関の皆さんが、こうした「事務の重圧」に押し潰されないように。
- 私が法律と書類の面で皆さんの「最強の盾」となり、現場を守るためのバックオフィスを引き受けます。
皆さんは、現場で立ち尽くす企業と外国人のために、その時間を使ってください。
5. 次回予告:精神論ではなく「仕組み」で解決する。ボイスレコーダー活用術。
さて、ここまでは現場の「感情」と「無力感」についてお話ししてきました。しかし、共感だけでは現場は変わりません。
「聞き取れていない」という物理的な問題を解決するには、精神論ではない「物理的な仕掛け」が必要です。
そこで次回のブログでは、私が現場経験と行政書士としての法的視点を組み合わせて考案した、「ボイスレコーダーを活用した、わかったふり根絶オペレーション」について詳しくお伝えします。
単に録音するだけでは意味がありません。
- どのように録音し、どうやって「復習」させるのか。
- 企業側に「手間」だと思わせないための導入フローは?
- 「言った・言わない」のトラブルを回避し、証拠能力まで担保する運用とは?
支援機関の皆さんが、自信を持って企業に提案できる、「言葉の壁をテクノロジーでハックする方法」を徹底解説します。
結びに
現場で戦う支援機関・監理団体の皆さん。 皆さんの仕事は、単なるビザの取り次ぎではありません。異なる文化、異なる言葉を持つ人間同士が、同じ場所で笑って働ける世界を作る、尊い仕事です。
「もう無理だ」と匙を投げたくなる夜もあるでしょう。でも、その無力感を知っているあなただからこそ、救える現場が必ずあります。
事務手続きの重圧は、すべて私に預けてください。 共に、現場の絶望を「希望」に変えていきましょう。
【今回のまとめ】
- 「わかったふり」は悪意ではなく、聞き取れない恐怖からの自己防衛。
- 企業の無力感は、善意が届かない虚しさから生まれる。
- 支援機関は、その断絶を埋める「翻訳者」であるべき。
- 解決の鍵は、次回の「ボイスレコーダー活用術」で公開!
執筆者:山本裕一行政書士事務所 代表 山本裕一 (監理団体出身。現場の痛みがわかる行政書士として、登録支援機関の事務サポートに特化して活動中。)


コメント