自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印することで作成される遺言形式です。手軽に作成できる一方で、形式不備や内容の曖昧さから無効と判断されるリスクや、相続人間での争いを引き起こす可能性があります。京都の老舗かばんメーカー「一澤帆布工業」の相続争いは、自筆証書遺言の問題点を浮き彫りにした事例として広く知られています。
一澤帆布工業の相続争いの概要
2001年3月、一澤帆布工業の三代目社長である一澤信夫氏が逝去しました。その後、2通の自筆証書遺言が発見され、相続人間での争いが勃発しました。
1通目の遺言書(1997年12月12日付)
顧問弁護士が保管していたもので、巻紙に毛筆で書かれ、実印が押印されていました。三男夫妻、四男夫妻が株式を取得するとされていました。
2通目の遺言書(2000年3月9日付)
長男が信夫氏の死後4か月後に提出したもので、便箋にボールペンで書かれ、認印が押印されていました。長男が80%取得するとされていました。
2通目の遺言書の疑問点
印鑑の異なる漢字
2通目の遺言書では、押印された印鑑が「一澤」ではなく「一沢」となっており、通常使用されていたものと異なっていました。
裁判の経過と筆跡鑑定の役割
三男側は2通目の遺言書の無効を主張しましたが裁判では、2通目の遺言書の無効は認められず、有効と判断され、長男が経営権を継承しました。
ここでわかるように通常使用していなかった漢字(一沢)であったとしても遺言が不正に作成されたと判断されなかった点です。このように自筆証書遺言は紛争を起こしやすいものといえます。
この相続問題は別件の訴訟により最終的には遺言書の筆跡や印鑑の不自然さが指摘され、最終的に無効と判断され、三男が相続することになります。
自筆証書遺言の問題点と対策
この事例から、自筆証書遺言には以下の問題点があることが明らかになりました。
偽造や変造のリスク
自筆証書遺言は、遺言者が単独で作成・保管するため、偽造や変造のリスクが高まります。
遺言能力の疑問
また認知機能の衰えがあったりすると前に作成した自筆証書遺言と整合性が欠けるものを作成してしまい、相続人が被相続人の遺言能力を争うような事態が発生します。
これらの問題を回避するための対策として、公正証書遺言が望ましいと言えます。
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